(Matthew J. Chinman, Richard Weingarten, David Stayner, Larry Davidson.)
「Chronic(慢性の)」という概念を再考しよう、というこの論文は、
過去には、“Chronic(慢性の)”という言葉は重い精神疾患を有し、州立の精神科病院で長期にわたるケアを受けているような人々を指すのに使われていた。そしてこの言葉には、こういった人々は良くなることはなく、長期に保護的なケアを必要とするという考え方が含まれていた。しかしながら、世界の様々な場所で行われた研究により、このような疾患を有する人達の多くが時間とともに良くなるということが証明されてきている。そしてもっと最近の研究により、このような人々は入院よりも地域での暮らしを選ぶこと、その殆どの人は適度に適応して暮らしていくことができること、そして症状が残っていたとしても、豊かで充実した人生を送っていくことができることが示唆されている。このようなエビデンスがあることもあり、そして精神保健の当事者達にとってこの言葉は屈辱的であると捉えられたこともあり、“chronicity(慢性化)”というような言い方はあまり好かれなくなってきている。(Chinman, 2001. p.216 line 1-20)というような緒言ではじまっています。
この論文では、“chronicity”を、人と環境がうまく合っていないことによるものだ、つまり、精神科疾患を有する人の多面的で複雑なニードに対して、地域の精神保健システムはそれに対して適切な準備ができていないことによるものであることを考えてはどうかと言っています。
さらにこの論文では、“Welcome Basket Program”という、精神保健の利用者により作られ、スタッフも管理者も皆利用者というピアサポートベースのプログラムについての紹介がなされています。
Welcome Basketという、精神保健の利用者によって運営されているこのプログラムは、まずは入院中の人のところに行って、このプログラムを紹介し、参加したいかを聞き、退院後、その人の家に訪問して食べ物や植物、地域のお店の割引券などを入れたバスケットを届けるのだそうです。さらに、地域の互助グループの紹介などもするとのことです。
さらに詳しいプログラムの説明と、このプログラムの効果に関する予備的な研究結果が示されていますが、この論文では、Welcome Basketと対照群はどちらもその後の入院日数に減少が見られたものの、Welcome Basketを利用した人とそうでない人との有意な違いはなかった、という結果でした。
今後は実際にその利用者達がどのような経験をしているのか(実際にどのような介入で、どのように評価するのが良いのか)を確実にするためにも当事者の人たちにこの研究に協力者として加わってもらう必要があるだろう、参加型アクションリサーチは有用であろう、と言っています。
ここ↑で紹介されているWelcome Basket Programとは、たぶん、Connecticut Mental Health Centerのウェブサイトで紹介されているSocial Integrationのサービスの一つだと思われます。
ピアサポートに関する論文を読んだりしていて、せっかくならこのブログにもメモを残しておこうと考え、論文紹介を時折アップすることにしました。掲載する順に意味はありません。また、特にお勧めのものだけを載せる、というわけでもありません。
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